花束みたいな恋をした

今作のタイトルやジャケットから連想する印象として

「著名俳優を起用した量産型のラブストーリー?」

そんなふうに思った人も多いのではないでしょうか?

いわゆる理想や憧れを追体験して、キュンキュンしたりドキドキしたい人が見るやつなのか?

仮にもし、あなたが上記のような映画を見たい気分なのであれば、残念ながら今作はオススメできません。

なぜならこの映画は、彼氏彼女という関係性を結んだ経験のある人なら誰しもが、『あの時の私たち』をすぐ側に感じることのできる程に、恋愛というものについてを暖かく振り返り、人生の中におけるパートナーシップというものについてを考えさせられる作品だからです

どんな人にオススメか?

  • 一人のパートナーと長く付き合った経験のある人
  • 現在のパートナーとの関係性の変化を感じている時
  • 理想の相手とは何かを考えている時

もしもあなたが↑のいずれかに当てはまるようなら、是非とも鑑賞をおすすめします

恋愛という不確定な感情の現実を提示されながらも、それでも人生の中で恋愛というものにどう向き合って行くべきなのか、考えのヒントが得られるかもしれません。

それでは以下でオススメ理由の詳細をご紹介します↓

作品情報

花束みたいな恋をした

「東京ラブストーリー」「最高の離婚」「カルテット」など数々のヒットドラマを手がけてきた坂元裕二のオリジナル脚本を菅田将暉と有村架純の主演で映画化。坂元脚本のドラマ「カルテット」の演出も手がけた、「罪の声」「映画 ビリギャル」の土井裕泰監督のメガホンにより、偶然な出会いからはじまった恋の5年間の行方が描かれる。東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った大学生の山音麦と八谷絹。好きな音楽や映画がほとんど同じだったことから、恋に落ちた麦と絹は、大学卒業後フリーターをしながら同棲をスタートさせる。日常でどんなことが起こっても、日々の現状維持を目標に2人は就職活動を続けるが……。

2021年製作/124分/G/日本
配給:東京テアトル、リトルモア
劇場公開日:2021年1月29日

映画.com

奇跡と平凡

「これ以上の出会いは無い」、そう思って疑わない程に奇跡の連続で出会い。

「もはや今後もきっと続いていくに違いない」という期待感に満ちた生活をスタートさせる。

そして、そこからはひたすらにありふれた日常で時間が経過していく、冒頭の奇跡とは対極に、始まった日常生活には何も特別なドラマはなく、平凡で普通の人間として、社会に出て、仕事をして、普通の日常を生きて行く様子と、生活に応じて少しずつ変わりゆく価値観が丁寧に描かれていく。

丁寧に描かれた日々の日常の中で少しずつ価値観や優先順位が変化していく事は、恋愛感情における「今後もきっと価値観の一致が続いていく」という根拠無きトキメキに満ちた期待感と矛盾する為、変化した自分を(そして相手を)受け入れがたく、自分にとって都合が良いように価値観の共通項を書き換え、無意識のうちに相手が同じように変化していく事を求めてしまうのが恋愛の性。

「今まで一致していたもの」と「変化していった結果」のズレはブラックボックス化してしまう為、気付いたときには二人の共通認識であったはずのパートナシップの理想像が何なのかすらも見失ってしまう。

今作では、冒頭のありえないような奇跡と、どこにでも転がっているような日常とを比較する事で、痛々しい程に恋愛の性を突きつける。どれだけ夢のような相手と出会っても、奇跡のような、運命としか言いようの無いような相手と出会ったとしても、「その時」の事と「これから」の事は別なのだと。

あの時の「わたしたち」を感じさせるディティール

これでもかという程、作中に出てくる実在する固有名詞の連続と(主にサブカル関連)、

丁寧に描かれた日常生活における所作や表情、コミュニケーションのひとつひとつのディティールが、

どこか人ごととは思えないような”あの時の僕たちや私たち”の話だと思わせてくれる。

様々に散りばめられたシーンのあちこちで当時の自分たちを確認し、あの頃を暖かく振り返りながらとにかく一つ一つの場面について誰かと話したくなる。

まるで地続きの世界にあるような実在感のある作品。

恋愛関係における一つの結論

結論は冒頭のカフェのシーンにて、イヤホンを片耳ずつ訳あって音楽を聴くカップルに対して、言及する”とある一言”にて語られる

それは恋愛の性質的に不都合な真実でもあると同時に、”他者”である相手に対して示す誠実さの極地でもある。

今作での結論めいたメッセージは、恋愛関係の理想を成就させる為の最適解といった類のものではなく、あくまでも目の前の現実への向き合い方についての回答。

今作で語られる結論を理解しながら恋愛をしていくのは、とても勇気のいる事で、時に受け入れがたいとは思う。

しかし、それでも人は恋をする。

絶対や永遠などは無い。そんな誰もが本当は気づいている当たり前の事実が潜在意識にあるからこそ、刹那的なロマンを感じるのかもしれない。

人生はその時、その瞬間の連続で出来ているように、恋愛もまたそうである

パートナーシップにおける不都合な真実を受け入れ、先行きの分からない”今この瞬間”の連続と、誠実に向き合いながら恋をしていく。

そんなたくましさを貰える作品。大傑作でした。

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